ドクターMの家造りのすすめ

伝統工法、無垢の木、竹子舞、漆喰、いぶし瓦の家の主より

建築中の業者倒産に備えるべきこと。

despair

家を建てている途中で業者が倒産するなんて話はマンガの世界でしょ。
そう思います。いや、そう思っていました。この話を聞くまでは。

私の友人(幼馴染)が家を建てている途中で業者に逃げられました。倒産間際の夜逃げです。家はまだ壁も窓もなく、内装工事は手つかずの状態でした。その後彼の家がどうなったか、こんな目に逢わないようにするために何ができるか、今回はそんなお話です。

 

事の顛末

友人がそろそろ家を建てるという話を聞いていたので、帰省して会った時に、我が家はこんなのだよと話をしていました。その後、業者が決まり、どんな家になるかという話も聞いていました。

川沿いの土地で、夏には家の目の前で花火大会があるので、2階をリビングにして続きのウッドデッキから花火を見るんだと楽しそうに言っていました。建築業者として選んだのは地元の工務店です。地元ではまずまず名の知れた業者だったようです。

ある年に帰省して、彼の家を見に行くと、工事が始まっていました。数か月後にも見に行くと工事はある程度進んでいましたが、思っていたより進捗していません。着工から数か月経っているのに、壁もできていない?土壁でもないのに少しおかしいなと思いました。

さらに数か月後に見に行っても工事が全く進んでいません。さすがにこれはおかしいと思いつつも、本人には聞けないので、周辺の人に聞いてみましたが、皆も不審に思っているものの情報が無いという状態でした。

 

少し後になって、どうやら業者に逃げられたようだという噂を耳にしました。現場の状況からして間違いなさそうだったので、意を決して本人に聞いてみました。何かできることがあれば手伝うよと申し添えて。

すぐに本人から元気そうな返事がありました。業者が夜逃げしたこと、工事の進捗に合わせて費用を支払っていたので費用的なロスは最小限だったこと、弁護士と善後策を相談していること、工事を引き取って完工してくれる業者が見つかったこと等々を教えてくれました。

次に帰省した時には最初に思い描いていた素敵な家が完成しており、すぐに突撃訪問して、無言の堅い握手を交わしました。いや~よかったね!

 

この事例では、彼に全く非は無く、完全に被害者です。逃げた業者が悪です。私にできることは、彼の経験を教訓にして、同じ轍を踏む不幸な人が出ないように発信することだと思いこの記事を書いている次第です。

また、建築中の業者倒産は最も避けなければならない事故ですが、家は完成したら終わりではありません。業者とは完成後もアフターメンテナンスを含めて末永く長くお付き合いすることになります。メンテを依頼する業者が無くなるのも避けたいところです。

施主にできる業者倒産のリスク回避策

施主にできること、やるべきことを考えてみます。

① 業者の経営状況を知る(大手住宅メーカー)

こんな話を聞くと、大手住宅メーカーを志向する気持ちがよく分かります。大手なら潰れることはないよね、詳しくは知らないけど大手だったら安心だよねというのが共通認識だと思います。上場している大手住宅メーカーならば経営状況を開示しているので、確認することができます。

上場している大手住宅メーカーの経営状況は安心なのか、直近のデータを見てみましょう。大手と言っても色々ありますし、戸建住宅以外の事業を幅広くやっている会社も多いです。細かい話は無視して、大手=売上高が大きいと考えて、戸建住宅以外も含めた全社の売上高の上位8社のデータを見てみます。

  売上高
(百万円)
営業利益
(百万円)
営業利益率
(%)
自己資本比率
(%)
大和ハウス工業 3,192,900 243,100 7.6 35.9
旭化成工業(へーベルハウス) 1,940,914 165,203 8.5 47.1
積水ハウス 1,858,879 149,645 8.1 52.1
積水化学工業(セキスイハイム) 1,096,317 89,823 8.2 55.9
住友林業 1,040,524 30,093 2.9 34.3
ミサワホーム 399,336 6,686 1.7 17.5
パナホーム 352,971 15,851 4.5 53.5
三井ホーム 256,158 4,674 1.8 36.1

各社の2016年3月期(一部1月期)の有価証券報告書や決算短信より抜粋


経営状況が安心かどうかを判断する指標としては、自己資本比率(借金が多すぎないか)や営業利益率(本業で儲けているか)に着目します。自己資本比率については以下のような目安があるようです。

40%以上:借金が少ない倒産の危険性が低い企業
20%以下:借金が多い倒産の危険性が高い企業

 

自己資本比率が低いからといって倒産が差し迫っているわけではないのですが、特に自己資本比率も営業利益率も低いメーカーは経営的にはよろしくない状況だと判断できます。ミサワホームの数値は少し気になりますね。そういえば最近こんなニュースが報じられましたね。

トヨタホームがミサワホームを子会社化 出資51%に:朝日新聞デジタル

 

10年以上前からトヨタホームはミサワホームの筆頭株主でした(バブル期の過剰投資の影響でミサワホームの経営が厳しくなった折にトヨタホームが支援)。これは推測ですが、資本のテコ入れをしたいミサワホームとノウハウ(特に営業)が欲しいトヨタホームの思惑が一致したということかもしれません。

 

このように大手住宅メーカーの経営状況が厳しくなったとしても、どこからか救いの手が差し伸べられ、資本が変わっても事業を継続する可能性が高いと思います。したがって、今回挙げていない他のメーカーも含めて、大手と呼ばれるメーカーの経営状況は総じて安心できると言っていいと思います。

 

大手住宅メーカーの建築費は少し割高かもしれませんが、倒産リスクが低いという安心感を得るための費用と捉えると、納得できるかもしれません。なお、他の大手住宅メーカーの経営状況は例えばこちらを参考にしてください。数年前のデータのようですが、傾向は変わらないと思います。

ハウスメーカーを売上高でランキング


② 業者の経営状況を知る(中小規模メーカー、工務店など)

こちらのデータは戸建て住宅の着工戸数のシェアです。大手と呼ばれるメーカーのシェアは30%程度、その他大勢は地場の工務店などの中小規模業者です。

market-share

http://saiyo.ichijo.co.jp/p/field/gyokai.htmlより引用。


毎日のようにテレビで大手住宅メーカーのCMが流れてくるので、世の中のほとんどの人は全国区の有名メーカーで家を建てているのかと思いきや、地場の工務店や大工さんが建てている家が圧倒的に多いのです。

大手は安心そうだということは分かりました。では大手でない場合はどうなのでしょう。経営状況を公表している業者は少ないので、先ほどのように調べることができませんが、以下のような手が考えられます。

 

②-1 都道府県庁で建設業許可を受けた業者の経営状況を調べる

住宅建設業を営むためには、事業規模に応じて国か都道府県から建設業許可を受ける必要があります(5年ごとに更新)。詳しくはこちら。

建設産業・不動産業:建設業の許可とは - 国土交通省

 

その際、関係当局に経営状況が分かる書類を申請しています。この資料は、例えば都道府県庁の建設業課(地方自治体によって名称は異なるかもしれません)に出向けば無料で閲覧可能です。経営状況を知りたい業者の名称が分かれば目的の資料に辿り着けると思いますが、事前に財務諸表の見方などは調べて行くのが賢明です。なお、一度に閲覧できる業者の数や閲覧時間に制限を設けている可能性がありますので、自治体のウェブサイト等で確認してください。

 

②-2 一人当たりの売上高から推察

社員一人当たりの売上高が3千万円というラインを経営上の損益分岐点と考え、それ以上の売上高があるかどうかで経営状況を判断するという方法を提案している方がいます。例えば、工務店の社員が5人であれば、売上高が1億5千万円以上であれば一人当たりの売上高が3千万円を超えます。かなり乱暴なやり方かもしれませんが、私は当たらずも遠からずだと思いました。

◎ 工務店の経営状況を簡単に知る方法 (生産性) |オーガニックスタジオ新潟社長の奮闘記 │ おーがにっくな家ブログ

 

③ 建築費の支払い条件はテールヘビーに

建築中の業者倒産で最も困るのは先に支払った費用が返ってこないということです。このリスクを軽減するために、建築費は工事の進捗に合わせて支払うべきです。支払い条件は業者との交渉事項ですが、支払いを後にするほどリスクは抑えられます。完工に近づくにつれて多く支払うテールヘビーな支払条件を目指して粘り強く交渉しましょう。

下記の例のように着工時に総額の7割を支払うなどもってのほかです。こんな理不尽なことを要求する業者とは決別しましょう。

注文住宅会社が潰れる悲劇――富士ハウス破産に思う|日経アーキテクチュア


そういう意味では、我が家で採用した分離発注は理にかなっています。基本的には工事が完了したら支払うのですから、工事中に業者が倒産しても費用的な損失は最小限です。ただし、一部の金額の大きな工事や期間の長い工事は分割して支払いました。例えば、大工工事は1年半に渡って毎月支払いましたし、着手金を少しだけ支払い、工事完了後に精算した業者もあります。いずれにせよ、多額の費用を前払いすることだけは絶対に回避しましょう。

 

 

④ 完成保証をつける

建築中に業者が倒産した場合、前払い金の損失や家を完成させるための追加費用を一定額まで保証したり、工事を引き継ぐ業者を探してくれるサービスがあります。以下の会社が提供しており、住宅完成保証制度と呼ばれています。

住宅完成保証制度(個人のお客さま向け)|住宅保証機構株式会社

住宅完成保証制度|サービス一覧|住宅瑕疵担保責任保険の住宅あんしん保証

 

この制度を利用するためには、建築業者が住宅完成保証制度の登録事業者であることが必要です。未登録の場合は、建築業者に事業者登録をお願いするところから始める必要があります。登録事業者になるためには、経営状況を含めた厳格な審査があるようですので、登録事業者=審査をパスした会社であれば一安心です。

登録事業者であれば、住宅完成保証制度を適用する条件で建築業者と契約した上で、住宅完成保証機構等に保証制度の利用を申し込みます。保証料は数万円オーダーだと思います。

新築したり増改築するなら知っておくべき「完成保証」とは何か? - GIGAZINE

 

業者倒産以外のリスク回避

建築中の業者倒産以外にも、家を建てる際や建てた後にも様々なリスクがあり、対応が必要になることがあります。我が家が対応したことを紹介したいと思います。簡単に言えば保険に加入したということです。分離発注だったので、このような細かいものまで把握できてしまい、こんな保険まで必要なのかと思ってしまいました。

一括発注の場合は明細に上がってこない保険もあるかもしれません。でも、どこかの費目に潜り込んでいて、気付かない内に施主が費用を負担しているのだと思います。

建設工事保険

工事中の不慮の事故(火災、盗難、風雨など)で家屋が損害を受けた場合に備える保険です。

瑕疵担保保険

業者は倒産していないけど、完成した家の主要部分に不具合(雨漏りや傾きなど)があった場合に備える保険です。 

火災保険

建物や家財が、火災・落雷・風災・雹災・雪災・盗難・水災などにより損害を受けた場合に備える保険です。住宅ローンの条件で火災保険への加入が義務付けられる場合が多いと思います。

地震保険

火災保険では地震による損害は補償されません。地震専用の保険に加入する必要があります。保険料は地域ごとに設定されており、今後大きな地震が起こる可能性が高いとされる地域の保険料は高いです。