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ドクターMの家造りのすすめ

伝統工法、無垢の木、竹子舞、漆喰、いぶし瓦の家の主より

壁の役割を考える。その時、最適な材料が見えてくる。

これまで骨組みや基礎、屋根の話をしてきました。少し家の形が見えてきました。今回は壁の話です。まず、骨組みと屋根だけの家を想像してみてください・・・壁が無いので外まで視界が開けています。そのお蔭で家の中が広く感じます。

frame-house

しかし、外は大雨。部屋の中までビショ濡れになりました。骨組みも濡れてしまったので、放っておくと木が腐ったり、金物が錆びたりするかもしれません。

あら、風で飛んできたゴミが部屋の中でクルクル回っています。風がやけに冷たい。あぁ寒い・・・凍えそうなので鍋でも食べることにします。あっ!鍋の具材を野良猫が食べてます。こらぁ!

ん?家の外で誰かが話しながらこちらを見ています。話が筒抜けです。んん?!壁の無い家があるらしいと聞いて見物に来たようです。あっ!パジャマ姿を撮られました。ツイッターで拡散しようとしています。見せもんじゃねぇ!ふぅ~

家の中が広く感じると思ったけど、よく見ると荷物は全て床置きで丸見え。部屋が片付いたように見えません。そもそも壁が無いので部屋は一つですが。お兄ちゃんは勉強する振りをしてゲームをしたいのに、ママから丸見えです。お姉ちゃんは友達と電話したいのに、パパに話を聞かれてしまいます。

家族会議開催。壁のある家がいいよね?全員一致で可決。あっ!地震です!骨組みだけでは強度が足りないみたいで、家が崩れ始めました。しかも、隣の家から火の手が上がっています!すでに我が家にも燃え移ってるみたい・・・今すぐ逃げろ~!!

この話の中に壁の基本的な役割が入っています。真面目に考えてみましょう。

家の壁の断面はどうなっているか。

壁の役割を考える前に、家の壁がどんな構造、材料でできているのか確認しておきます。基本的にはいくつかの材料を重ね合わせたミルフィーユのような構造になっています。代表的な壁の断面図を模式的に描いてみました。当然、これ以外にも多くのバリエーションがあります。

wall-section

在来工法、軽量鉄骨、ツーバイフォーとも大きな違いはありません。軽量鉄骨の場合は柱を鉄骨に、ツーバイフォーの場合は柱を枠材に読み替えてください。1の外装材は窯業系サイディング(セメントに繊維質原料を混ぜて固めたもの)がポピュラーだと思います。

2の透湿防水シートは、水は通さず湿気は通す代物です。外部からの水分はここで遮断し、3と4の間の湿気を通気層を通じて逃がします。ツーバイフォーや外装材を湿式タイプにする場合、3の外装下地材が入ります。その場合、外装下地材が透湿する材料でなければ通気層へ湿気を逃がすことができなくなります。

断熱材は柱の間に入れる場合が多く、内断熱と呼ばれます。また、施工の容易さを考慮して、2と4を袋状にして断熱材を中に充填しておく製品が主流です。その場合、2や4のシートを隙間なく取り付けることが施工上の注意点になります。

断熱材を3より外側に入れて柱ごと断熱するのが外断熱です。その場合、柱の間は何もない空間となります。4の防湿シートより室内側には外からの湿気を通さないようにします。そして5の石膏ボードで部屋の壁の下地を作ります。6の内装材はクロスを用いることが多いでしょう。

壁の基本的な役割。優先的に考慮すべき項目は?

さて、壁の役割ですが、基本的なものを以下に挙げています。

  1. 風雨の侵入防止
  2. 部外者の侵入防止
  3. 視線の遮断
  4. 耐力壁
  5. 延焼防止
  6. 遮音
  7. 断熱

これらの中で1.~3.は壁さえあればほぼ自動的に達成できます。

4.は建築基準法で規定される壁量計算と呼ばれる強度検討をして、しかるべき場所にしかるべき壁(耐力壁)を入れる必要があります。地震や風を想定した水平方向の力を受けた時、耐力壁の壁量(壁の長さ)が要求を満たすように設計することになります。単に壁量を満たすだけではなく、平面図の4辺の端から1/4のエリアにバランスよく耐力壁が設置されているかどうかもチェックします。また、壁の仕様によって壁量にカウントできる量が変わります。これは専門家に任せるべき項目で、ユーザーサイドではあまり考える必要はないのですが、間取りを考える際に知っておくと役立つ知識だと思います。この場所かこの場所にこのくらいの壁を入れなければ強度的に成立しないといった制約が生じて、そのことが間取りに影響する場合がありますので。

5.はどのような場所に家を建てるかによって状況がかなり変わります。これも専門家に任せるべき項目ですが、特に都会の商業地域などで指定される防火地域においては、木造住宅そのものが建てられない場合もあるので注意が必要です。第一種/第二種低層住居専用地域に建てる場合はあまり気にしなくて良い項目です(火災のことを気にしなくてOKという意味ではないので念のため)。

我々が考慮すべき項目は、6.と7.です。まず、6.についてですが、ネックになるのは壁ではなく窓である場合がほとんどです。壁の遮音を気にしなければならないのは、家の中でピアノを弾くなどの特別な事情がある場合です。参考までに少し専門的な話になりますが、遮音性能について解説しておきます。

遮音性能の評価。50+50=100?否。53という世界。

音の基本事項

まず、音の基本的な事について。音は空気中を伝わる波なので(音波と言いますね)、大きさと周波数という2つの指標で表現できます。イメージとしてはこんな感じです。

sound-wave

音の大きさは、物理的には圧力なので音圧と呼び、単位はPa(パスカル)を用います。周波数の単位はHz(ヘルツ)です。

また、音が大きいか小さいかを表現する指標としてdB(デシベル)という単位があり、音圧をデシベルに換算して使われます。これは人間の耳の感覚が対数的に変化することと、知覚できる範囲が広いために、「基準値に対する比の対数」であるデシベルを使うと取扱いが簡単になるためです。デシベル単位で表現されたものは〇〇レベルと呼び、音の大きさの場合は音圧レベルになります。式で書くと以下のようになります。

音圧レベル=20log(P/P0)

P0は基準値で2x10^(-5)、Pは音圧です。式を見ると「基準値に対する比の対数」となっていますね。人が知覚できる最小音圧を基準値にしており、音圧が2x10^(-5)の場合のデシベル値は0です。logとか見ただけで嫌になりますかね。。

デシベルに変換された音圧ですが、足し算するとおかしなことになります。見出しにもありますが50dB+50dB=53dBなのです。どのように計算するかというと、10log(10^(50/10)+10^(50/10))=53.01...です。
また、人間の耳はよくできたもので、同じデシベルの音であっても周波数によって感じ方が違います。低い音や高い音というのは周波数が低い、高いと思ってください。
この感じ方に合わせて補正をかけた音圧レベルのことを騒音レベルと言います。簡単に説明すると周波数250Hz以下の音圧レベルをグッと下げるような補正です。人間は低周波数域の音に対して鈍感なようです。基本的に音が大きい小さいを判断するのは騒音レベルだと思ってください。音圧をデシベル単位に換算して周波数の補正をかけると騒音レベルになります。では騒音レベルが感覚的にはどのようなものかを示しておきます。

dB騒音のレベル
0 知覚できる最小レベル
30 静かな公園
40 静かな室内
50 事務室内
60 通常の会話
80 電車内
90 鉄道ガード下
130 知覚できる最大レベル

 

ということで、騒音レベルが40dB程度の室内であれば快適に過ごすことができそうです。

壁の遮音性能は透過損失を考えればよい。

次に室内の騒音レベルを40dBに保つためにどのような対策をすればいいか考えてみます。仮に家の外の騒音レベルを65dBとします。これは一般国道から30m離れた場所の騒音レベルに相当します。

家の外の音は壁を通過(透過)して室内に入ってきますが、その際、少し音が小さくなります。壁を通過して音がどの程度小さくなるか、その度合いを透過損失と言います。

室内の騒音レベル=室外の騒音レベル-透過損失

と表現され、透過損失が大きい方が室内の音を小さくできて有利です。透過損失は計算で求めることができます(小難しいので説明は後回し)。

一般的な住宅の壁の透過損失はざっくり40dB程度です。つまり、65dBの外の音は室内に入ってきた時には40dB下がって25dBになります。元々の部屋の騒音レベルが40dB、そこに25dBの音が加わったら・・・40.1dBです。このことから、それなりに賑やかな場所に家を建てる場合でも、通常の壁にしておけば室内の音は気にならないレベルにできるということです。

しかし、ガード下級に騒々しい場所に家を建てる場合や室内で大きな音を出す場合(楽器演奏など)は、透過損失が大きい壁を選定する必要があります。

透過損失を大きくするにはどうすれば良いか、透過損失の計算法から見ていきます。透過損失は壁の重さと周波数の関係で決まり、次のような式で表されます。

透過損失=TL0-10log(0.23 x TL0)
TL0=20log(f x M)-42.5

fは周波数(Hz)、Mは壁の単位面積あたりの重さ(kg/m2)です。この式から、透過損失を大きくするためにはMを増やす、つまり、壁の重量を重くすれば良いことが分かります。壁の重量を重くするためには、重い材料を使うか、物量(壁の厚さ)を増やすことになります。また、周波数が高い方が透過損失は大きくなります。これは高音の騒音は元々室内に入ってきにくいことを意味します。

試しに、土壁、鉄筋コンクリート(RC)、杉板について、透過損失を計算してみました。なお、単位体積あたりの重さは、土壁が1,800kg/m3、鉄筋コンクリートが2,400kg/m3、杉板が380kg/m3です。これに厚さを掛けると単位面積当たりの重さが得られます。

周波数
[Hz]
透過損失[dB]
土壁
(50mm)
土壁
(100mm)
土壁
(200mm)
RC
(100mm)
RC
(200mm)
杉板
(30mm)
31.5 18.7 23.8 29.1 26.0 31.3 5.6
63 23.8 29.1 34.5 31.3 36.8 9.4
125 29.0 34.4 39.9 36.7 42.2 13.8
250 34.4 39.9 45.4 42.2 47.8 18.7
500 39.9 45.4 51.0 47.8 53.4 23.9
1,000 45.4 51.0 56.6 53.4 59.0 29.2
2,000 51.0 56.6 62.3 59.0 64.7 34.5
4,000 56.6 62.3 68.0 64.7 70.3 40.0
8,000 62.3 68.0 73.7 70.3 76.1 45.5

 

transmission-loss

どの周波数で見てもいいのですが、例えば赤字の500Hzのところで見ると、同じ厚さなら土壁より重いRCの方が若干有利という結果です。ただし、土壁やRCを単体で使うことは無く、断熱材や表面材を重ねますので、実際の透過損失はもっと大きな値になります。杉板単体では遮音効果が低いことも分かります。

このように、家の周囲の騒音レベルや楽器演奏の音がどの程度か、壁の透過損失で騒音をどの程度下げる必要があるか、を考えると壁の材質や構造が決まってきます。今回は家の外壁に焦点を当てましたが、室内の仕切り壁についても同じことが言えます。

先にもお話しましたが、遮音については窓のことも考慮しなければなりません。ガラスの透過損失は20~30dB程度です。いくら壁で音を防いでも窓からどんどん音が入ってきます。これが「ネックになるのは壁ではなく窓」と言った理由です。窓の遮音対策については後日お話したいと思います。

断熱性能こそ壁の重要事項

Thermal-insulation-material

写真は断熱材のイメージですが、やっと7.の断熱性能の話に辿り着きました。壁の基本的な役割の中では重要事項です。きっちり断熱できると室内の快適さや光熱費を抑えることに繋がります。断熱に関してユーザーサイドでできることは、断熱材の材料、厚さ、断熱方法を選択することや、断熱材の施工方法、壁内の通気経路を確認することなどが挙げられます。ハウスメーカー等から提示された仕様に問題が無いか評価できるように、或いは現場の施工に問題が無いか確認できるように、最低限の知識を備えておきましょう。

断熱性能を評価する指標としてQ値(熱損失係数)なるものがあります。「室内外の温度差が1℃の時に、家全体から逃げる熱量(1時間、1平米あたり)」と定義されています。断熱性能が高いほどQ値は小さくなります。また、地域によって最低限満たすべきQ値が決まっています。しかし、Q値は電卓で簡単に算出できるものではない上に、計算条件によって値が大きく変わります。ですからハウスメーカーが公表しているQ値は(理想的な条件で計算しているはずなので)参考程度に見るのがよさそうです。ちなみにQ値が10%良くなる(数値が小さくなる)と光熱費も10%下がると言われています。

断熱性能の良し悪しは、断熱材単品の断熱性能ではなく、施工状態での断熱性能で評価するべきです。施工が悪くてはいくら高性能の断熱材を投入しても無意味になります。もう一度壁の断面図を見てください。もし壁内に湿気が生じた場合、断熱材より室内側へは防湿シートによって湿気が遮断されます。断熱材より外側へは透湿シート経由で通気層から湿気が排出されます。外装下地材は湿気を逃がすという意味では邪魔な存在です。高温多湿で寒暖の差がある日本の気候では、壁内に湿気が生じることは避け難いと言われていますので、断熱材の性能を発揮するためには、壁内を通気できるようにして湿気を外に逃がすことが重要です。

wall-section

断熱材は防水・透湿機能を備えた袋入りのものが主流です。施工時に断熱材が隙間なく充填されているか、透湿防水シートや防湿シートが隙間なく取り付けられているか、現場での要確認事項です。袋を固定した箇所が何らかの理由で外れると断熱材がずれ落ちて悲惨な状況になります。外装材を剥がして断熱材を再施工するのは非常に困難ですから。

断熱材の種類と特徴

代表的な断熱材とその特徴を以下にまとめます。例えば同じグラスウールでもグレードによって断熱性能は変わります。しかし、材料ごとの断熱性能を比較すると極端な差はありません。湿気に対する性能や施工のしやすさ、価格から選択することになりそうです。我が家は水に強いことを重視して、ポリエステル系の断熱材を採用しています。

断熱材断熱性能価格特記事項
グラスウール シェアNo.1、水に弱い
ポリエステル 水に強い、透湿
セルローズファイバー × 調湿、専門業者施工
羊毛 自然素材、調湿
ウレタンフォーム × 現場発泡可、専門業者施工
フェノールフォーム × 外張断熱の主役

構造材を伝わる熱も無視できない。

断熱は読んで字の如し、熱を断つわけですが、熱は隙さえあれば伝わってしまいます。断熱を考える上で、柱などの構造材を伝わる熱を無視するわけにはいきません。熱の伝わりやすさの指標として熱伝導率があります。鉄と木の熱伝導率を比較すると、鉄は木の800倍以上も熱を伝えやすいのです。軽量鉄骨工法は断熱性能面では非常に不利だと言えますので、構造材も断熱材で覆ってしまうなどの特別な断熱対策をする必要があります。

壁の付加的な役割や考えておくべきこと。

壁の基本的な役割は分かりました。しかし、壁には他にも考えるべきことがあります。例えば、以下のようなことです。

  1. 調湿、防臭
  2. 収納、装飾
  3. 意匠 
  4. 耐久性、メンテナンス、コスト

1.は室内側の話です。ビニールクロスでは期待できませんが、漆喰や珪藻土を採用すれば両方の役割が期待できます。我が家は漆喰ですが、室内で焼肉をしても全く臭いが残りません。

2.も室内側の話です。窓ばかりで壁が少ないと、家具の配置に困ります。家具の配置も考えて壁の位置を計画する必要があります。また、壁に収納家具や装飾品を取り付ける場合やエアコン、テレビを取り付ける場合には予め補強材を入れるなどの対策が必要になります。我が家の漆喰壁は、上記は考慮しているのですが、画鋲や釘を刺せないので、ちょっとしたものを飾るのに困ることがあります。

3.は室内外ともに関係あります。これは完全に好みです。我が家は室内側の漆喰の仕上げ方を部屋によって変えています。汚れが付きやすいキッチンはつるつる仕上げ、普通の部屋は微妙な凹凸をつけて表情を変える、という具合です。しかし、たまに子供がざらざらした表面の壁で手を擦り剥いて泣いています汗

4.は室外側の話です。ポピュラーな外装材であるサイディングですが、大体10年ピッチでメンテナンスが必要になります。2階建ての場合は足場を組む大がかりな工事になるため、かなりのコストがかかります。イニシャルコストとランニングコストを加味したライフサイクルコストで評価することが重要です。我が家の外装材は無垢の木と漆喰ですが、一応、メンテナンスフリーの計画です。

以上、長くなりましたが、壁については結構考えるべきことがありました。